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Vol.07 ありあけキャピタル株式会社「地元経済、地方銀行、行員、株主が同じ船に乗れば地方銀行は再生する」

2022.05.17

ありあけキャピタル株式会社代表取締役CIO 田中克典氏

「地元経済、地方銀行、行員、株主が同じ船に乗れば地方銀行は再生する」

 

– FinGATE テナントインタビュー Vol.07 –

 

街の再開発が進み、新しい情報・文化の発信基地として、そして資産運用・Fintech等の金融系スタートアップの集積地として注目されつつある日本橋兜町・茅場町。ここに今、金融系スタートアップの起業・成長を支援するインキュベーション施設「FinGATE」があります。現在、FinGATE BASE、FinGATE KABUTO、FinGATE KAYABA、FinGATE TERRACE、FinGATE BLOOMの5施設が整備されており、50社以上の金融系スタートアップ、行政機関、金融プロモーション団体等が入居しております。

それぞれの会社の今と未来、そしてFinGATEや日本橋兜町・茅場町に寄せる想いと期待について、話を伺ってまいります。

7回目は、ありあけキャピタル株式会社代表取締役CIOの田中克典(たなか かつのり)さん。地方経済の衰退によって厳しい経営環境にあると言われる地方銀行。今、その再生に向けて50億円の資金を集めた「ありあけキャピタル」が、いよいよ具体的に動き始めました。異常なまでの割安水準まで株式が売られ、もはや資本市場では何も期待されていないように見える地方銀行のどこに勝機を見出しているのか、田中さんに話を聞きました。

 

田中さんのキャリアから教えて下さい。

田中 慶應義塾大学の経済学部を卒業した後、政策メディア研究科という大学院に進学し、2001年に新卒でゴールドマンサックスに入社しました。配属は投資調査部です。2020年に退社しましたから、ほぼ20年間、リサーチアナリストの仕事に携わっていました。

アナリスト時代は最初の4年間が、デービット・アトキンソン氏のジュニアアナリストで、その後は資生堂やJTなどコンシューマー・プロダクトのアナリスト、さらにその後9年間は金融セクターのシニアアナリストです。

 

ありあけキャピタルを立ち上げた理由は何ですか。

田中  金融セクターのアナリストとしてのキャリアの後半は、マイナス金利が導入されて、日本の銀行の株価は下がる一方でした。いい加減、もう割安の水準に来ているのではないかと議論をするなかで、日本の金融に対してある種、もどかしさのようなものを感じたことが大きいですね。

特に地方銀行の株価のバリュエーションはPBRで計るのが一般的なのですが、それが0.5倍を割って、0.4倍、0.3倍というようにどんどん下がっていきました。そのなかで海外の投資家から「PBRが0.3倍って嘘だろう。純資産の算定が間違っているんじゃないか。どこかに多額の不良債権を抱えているんだろう。その不良債権を除いたリアルブックバリューでバリュエーションすると何倍になるんだ?」という問い合わせがたくさん来ました。

それに対する私の答えは、「いや、そうじゃない。特に地方銀行は、隠れた不良債権によってPBRが0.3倍まで低下しているのではなく、地方経済が衰退していくなかで将来、地方銀行の赤字がどんどん嵩み、結果的に純資産が毀損していくことを織り込んでいるのだ」というものでしたが、自分でそのように言っておきながら、ふとおかしいと思ったのです。

銀行の純資産がどんどん目減りしていく状況を、果たして監督官庁である金融庁は許容するのだろうか。そのままでは金融システム不安になる。だとしたら、そうなる前になにか反応があるはずだと、自分なりに考え方をまとめたのですが、それをアナリストレポートに書いたところで、それを信じて銀行株に投資する人は皆無に近い状況であることも分かっていました。

それならば、ゴールドマンサックスのアナリストという職を投げ打ってでも、自分でリスクを取ってこのポジションにベットすることが、金融セクターに対する自分自身の信念の示し方ではないかと思うようになったのです。それが、ありあけキャピタルを立ち上げることになったきっかけです。

 

 

ありあけキャピタルの投資を通じて、地方銀行をどのように変えていきたいと考えているのですか。

田中 もちろん私たちは投資家なので、企業価値を上げるのが最終目的ではあるのですが、その実現には、顧客である地元企業、銀行の経営者/従業員、株主の利害が一致することが重要だと考えています。

誤解を恐れずにいうならば、リレーションシップバンキングという言葉には、利益を度外視して、地銀は地方のために働くべきというニュアンスがあるように感じています。しかし、それでは、持続可能性がない。私は、地銀が地域経済のために働くことは大賛成ですし、それこそが地銀の本質だと思っています。ただ、地域のために銀行が働いて、銀行が儲かる仕組みを作っていかなければ、それは持続できないし、上場企業ではない。その時に、今の貸出というシステムだけでできるのかというのは再検討の余地はあると思っています。貸出はどうしても、デフォルトをさけなければいけないから保守的にならざるをえない。そういう商品設計なんです。だとすれば、地域の経済、企業のアップサイドをとれるPE(プライベートエクイティ)だってやるべきなんです。

銀行がもっとリスクを取って、かつ経営を成り立たせるためには、地域経済のアップサイドを享受できるようなビジネスモデルに変えることが大事なのです。つまり、投資先の事業会社が儲かれば、銀行も大きく儲かるようにすればいい。そうして初めて地方銀行は、地元に対して前向きになれるのです。

それに加えて、銀行従業員と株主をリンクさせることも必要だと考えています。会社は株主のものだから、従業員は株主のために働けというのは、やはり無理があります。株価の上昇が従業員やマネジメントにとってハッピーだから働くという方が自然です。だからストックオプションを従業員やマネジメントに付与することで、銀行の投資先が儲かれば銀行が儲かる。銀行が儲かるから従業員やマネジメント、株主も儲かるという、皆が「同じ船(セイム・ボート)」に乗るエコシステムさえ構築できれば、皆が心地よく前を向いて働けるようになるのではないかという仮説のもと、私たちは地方銀行への投資を実行していきます。

 

投資を通じて地方銀行の企業価値を上げていくということですが、具体的にどのような施策を講じるのですか。

田中 まず、企業価値を上げることの意味を銀行経営者には理解していただきたいと思います。それは株主だけではなく、銀行にとっても良い、銀行の経営者の選択肢を増やすことだからです。

上場していることの意義を考えてくださいと申し上げている。上場する最大の意義は、株式市場で資本調達できることなんです。ただ、銀行の増資というとメガバンクの危機のときのイメージで印象はわるい。そうではなくて、バリエーションを上げて、前向きな増資をするために企業価値をあげてくださいと。バリエーションが高ければ、再編するときであっても、自分たちの株を用いて、バリエーションの安い株を買うことで資本効率を上げる再編ができる。

では、どうすれば企業価値を上げられるのか、ですが、第一に政策保有株の売却です。政策保有株とは、つまり株式持ち合いのことです。これによって銀行の資本を食いつぶしている面があるので、まずは持ち合い解消を進める必要があります。

2つめの柱は地元に対してリスクを取ること。たとえば地元には後継者難で事業承継が出来ずに悩んでいる企業がたくさんあります。そのためここ数年は、他の企業に株式を買い取ってもらって第三者承継を行うためのM&Aが活発に行われてきました。

もちろん、それもひとつの手ではありますが、私たちは事業承継のためのプライベートエクイティファンド(PEファンド)を組成し、後継者難に直面している企業から株式を買い付けます。

そして、その企業が利益を計上したら徐々にPEファンドから株式を買い戻してもらいます。そうすれば、最終的にその会社の経営を引き継いだ人に全株式が移転しますし、同時に銀行としても融資業務以上のアップサイドを得ることが出来ます。

これに先ほど申し上げたストックオプションを組み合わせた三本柱によって、地方銀行の企業価値を向上させていきます。

 

地方銀行といってもたくさんあります。第二地方銀行も含めると100行程度ありますが、田中さんのアイデアに賛同して「変わるんだ!」と真剣に考えている地方銀行はどのくらいあるのですか。

田中 私たちとしてはこれから地方銀行に、友好的なエンゲージメントを通じて変革を起こそうとしているわけですが、そのためにはまず自ら積極的に変わろうと思っている銀行に投資していきます。

ただ、銀行業界は結構、横並びの強い世界ですから、隣の銀行が大きく変わったら、場合によってはうちもということで、ドミノ倒しのように「変わりたい」という気持ちの連鎖が起こるかも知れませんし、それに期待しています。そのためには、まずは私たちが結果を出していかなければなりません。

そもそも外資系証券会社出身者が立ち上げたエンゲージメントファンドって、地方銀行の経営者からすると、恐らく怖いというイメージが強いと思うのです。その恐怖心を払拭していただくためにも、現時点で私たちが投資している先と何とかして結果を出していきたいと考えています。

 

銀行を変えていくためには経営トップの覚悟が問われるのはもちろんですが、同時にそれをいかに現場に浸透させていくかも大事だと思います。どのようにして浸透させますか。

田中 基本はKPIです。銀行には基本的に優秀な人材が集まっているので、あとは正しくKPIを設定すれば良いと考えています。

たとえば従来ですと、どれだけ投資信託を販売したのかといったことをKPIに設定しがちだったため、手数料の高い投資信託を売るというともすると顧客利益と一致しない行動にでるインセンティブを持たせてしまったと思います。正しいKPIを現場に出せば、現場は正しく動くはずです。

その意味で、実は意識改革が必要なのは現場ではなく、KPIを設定するマネジメント側だと考えています。

 

最後にFinGATEに対する期待、要望などがあれば教えて下さい。

田中 今、FinGATEに集まっている人たちは、資産運用ビジネスやフィンテック等を通じて、新しい金融を生み出そうとしています。それぞれビジネスの着眼点、手法は違っても、大きな意味で目指す方向性やテンションが同じ人たちが、自分のそばにいてくれるので、とても良い気が集まっているように感じています。

それはとても大事なことで、お互いにお客さんを紹介し合うとか、それによっていくら儲かるかという話ではなく、お互いに刺激し合える、とても前向きの気が、FinGATEにはあるように思います。

コストを考えれば、どこかのマンションの一室を借りて、そこで作業をするのもありですが、それだと一人で悶々としてしまいますよね。

でも、ここならば、エレベーターやラウンジで、あるいは兜町を歩いている時に、FinGATEに集う方たちとばったり会って、立ち話をしたり、一緒にランチに行ったりして、そこでまた刺激を受けることが出来ます。こういう環境は大事にしたいですね。

 

 

ご協力ありがとうございました。

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