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Vol.06 金融庁「国際金融センターの実現を通じて、安定的な資産形成と企業・経済の持続的成長を図る」

2022.01.14

金融庁監督局証券課資産運用モニタリング室参事官 中川彩子氏

「国際金融センターの実現を通じて、安定的な資産形成と企業・経済の持続的成長を図る」

 

– FinGATE テナントインタビュー Vol.06 –

 

街の再開発が進み、新しい情報・文化の発信基地として、そして資産運用・Fintech等の金融系スタートアップの集積地として注目されつつある日本橋兜町・茅場町。ここに今、金融系スタートアップの起業・成長を支援するインキュベーション施設「FinGATE」があります。現在、FinGATE BASE、FinGATE KABUTO、FinGATE KAYABA、FinGATE TERRACEの4施設が整備されており、50社以上の金融系スタートアップ、行政機関、金融プロモーション団体等が入居しております。

それぞれの会社の今と未来、そしてFinGATEや日本橋兜町・茅場町に寄せる想いと期待について、話を伺ってまいります。

6回目は、金融庁監督局証券課資産運用モニタリング室の中川彩子参事官に、2021年6月にFinGATE TERRACEに事務所を設けた「拠点開設サポートオフィス(Financial Market Entry Office)」の開設の狙いや役割、国際金融センターを実現するために取り組むことについて、お話を伺いました。

金融庁「国際金融センター特設ページ」及び公式LinkedInアカウントについては、こちら。

 

世界に開かれた国際金融センターを実現するための諸施策にオールジャパンで取り組まれています。アジアには香港やシンガポールなどの国際金融都市がありますが、それに比べて日本の優位性はどこにあるのでしょうか。

中川 アジアの国際金融市場としては香港、シンガポールが存在感を示している中で、我々も、今すぐに香港やシンガポールの拠点を閉じて全て日本に移してくださいというつもりはありません。グローバルに金融ビジネスを展開する観点からは、それぞれの都市にメリットがあり、デメリットがあります。大事なことは、各都市の特性を活かして共存・補完し、アジアあるいは世界全体としての金融システムの強靭性を高めていくことだと考えています。香港やシンガポールには無い部分において、日本に強みがあれば、そこは日本が担う。日本には無い部分において、香港やシンガポールに強みがあれば、そこは香港やシンガポールが担う、ということです。

日本の強みは、世界第3位の経済規模や2,000兆円の個人金融資産に加え、治安の良さや、自由や民主主義といった普遍的価値を共有するG7のアジア唯一のメンバーであることなどにあると思います。

また、今般のパンデミックを含む、国際経済社会の様々な情勢の変化の中で、安定的な社会・経済活動を確保するためのレジリエンス(強靭性)という考え方の重要性が認識されています。投資の基本と同様、オフィスを地理的に分散しておくことは、平時には非効率に思えても、有事におけるリスクマネジメントの観点から有用となることを実感した方も多いのではないでしょうか。域内の1都市に単一のアジア地域統括拠点を設け、そこから必要に応じて出張という形式で近隣都市に人を派遣してビジネスを行うことがコロナ禍で困難になったのは、その典型です。レジリエンスの観点からも、日本に拠点を構えることの意義は高まっていると思います。

 

「貯蓄から投資へ」というスローガンを掲げていますが、まだ道半ばの印象を受けます。今後の展開をどう考えていらっしゃいますか。

中川 つみたてNISAやiDeCo(個人型確定拠出年金)などの制度拡充にともなって、徐々にではありますが、資産形成に対する関心は高まりつつあると認識しています。

銀行や証券、保険など、「金融」にさまざまな業態があるなかで、国際金融センター構想では資産運用ビジネスに力点を置いています。それは、資産運用業は安定的な資産形成の実現に重要な役割を果たしているということに加え、最近はESG投資が注目を浴びていますが、資産運用を通じて金融面から社会的課題の解決にもつながるためです。コロナ後の新しい経済社会の構築に向け、社会課題に関心が高いと言われる若い世代が、自分のお金の使われ方への関心を通じて投資に興味を持ってくれたら嬉しいです。

 

 

金融庁が兜町に「拠点開設サポートオフィス」を開設した狙いは何ですか。

中川 拠点開設サポートオフィスは、2021年1月に霞が関で産声を上げ、2021年6月に兜町へと移転してまいりました。

海外の資産運用会社が日本に参入するうえで、これまで長年にわたって越えなければならないハードルとされてきた税や入国管理等の問題を解決するために、他省庁と連携の上、各種制度の見直しを行いました。

それと共に、業登録における諸手続きを日本語で行わなければならないことも大きなハードルとされていました。その問題を解決するために、新規に日本に参入する海外の資産運用会社等の登録に関する事前相談、登録手続及び登録後の監督を英語で対応できるようにし、かつその諸手続きを、ここ兜町にある「拠点開設サポートオフィス」で、ワンストップで出来るようにしました。兜町を選んだのは、東京証券取引所や金融・証券関係の業界団体があり、昔から市場関係者の街として知られているからです。

 

拠点開設サポートオフィスを立ち上げてからの具体的な成果はいかがですか。

中川 本年1月に開設して以来、2021年11月末の段階で、4つの海外資産運用会社が英語での業登録を完了しました。(注)いずれも海外で評価の高い資産運用会社になります。

(注)2022年1月現在で5社が英語での業登録を完了。

今は新型コロナウイルスの感染問題があるので、積極的に海外へと出向き、日本への誘致をプロモーションするという状況にはありませんが、さまざまなオンラインのカンファレンスへの参加を通じて、海外の資産運用会社と接点を持つようにしています。将来的には、海外を訪問して国際金融センター構想のプレゼンテーションを行っていければと思います。

 

海外の資産運用会社は、日本のどこに魅力を感じて進出を決断するのですか。

中川 最終的には資金の調達先又は運用先としての広い意味での日本市場の魅力です。先ほども申し上げたように、日本には総額2,000兆円という巨額の個人金融資産があり、その半分が現預金のまま保有されているということは、資産運用会社にとってはポテンシャルの大きい国のひとつだと思います。

加えて、投資先として日本に魅力を感じるところもあるようです。グローバルに展開している巨大企業だけでなく、日本には投資先として魅力的なスタートアップ企業や中小企業がたくさんあります。

しかし、こうした企業の情報は、海外ではなかなかカバーできません。やはり日本に拠点を設けてリサーチを行わないと見えてこない部分がたくさんあります。

つまり海外の資産運用会社にとって、日本は運用資金を集めるための場であるのと同時に、集めた資金を投資してリターンを稼ぐ場でもあるのです。その魅力に気付いた資産運用会社が、日本への進出を決断して下さっているのではないかと思います。

 

日本国内にも多数の資産運用会社が存在しています。日本国内における資産運用ビジネスの競争を促進するうえで、国内の運用会社を育成していくことは考えられませんか。

中川 この拠点開設サポートオフィス自体は海外からの資産運用会社参入を容易にするために設けられた場所ですが、金融庁では、既存の資産運用会社とも、顧客利益を最優先する商品組成やファンド管理、ガバナンスなど、各社の運用力強化に向けた取組みについて継続的な対話を行ってきています。日本の資産運用ビジネスを高度化・活性化させるという点においては、海外の資産運用会社の新規参入と、国内の資産運用会社の育成のどちらか片方に力を入れるのかではなく、いずれも重要だと考えています。

 

将来的に、拠点開設サポートオフィスがどのような形になっていけば良いと考えていますか。

中川 海外の資産運用会社が日本に参入するのを促進するために設けられた拠点で、今はまだ「英語で全て対応できる」という点ばかりが注目されがちです。

勿論それは日本の行政としては画期的なことですが、しかし、香港やシンガポールでは英語で対応することが何か特別なことではありません。英語で対応するのが普通です。ですから拠点開設サポートオフィスも、英語対応はごく当たり前になり、更に、制度の分かりやすい説明や登録手続以外の創業支援や生活支援といった、言語以外の付加価値も含めて評価される存在になりたいと思います。

それが5年先なのか、10年先なのかは分かりませんが、そうした取組みの結果として、多くの海外資産運用会社が参入してきて、国内の資産運用業界の競争力が向上され、金融行政の究極的な目標である、企業・経済の持続的成長と安定的な資産形成等による国民の厚生の増大に貢献できた時、国際金融センター構想は一定の成果を収められたことになるのではないでしょうか。

 

兜町・FinGATEに対する期待を教えて下さい。

中川 2021年は感染症対策でなかなかリアルな面談も難しい状況でしたが、秋口から徐々に感染者数が減ったことで、リアルな動きも出てきました。特にここ数年は、FinGATEを中心にして兜町が金融系スタートアップの集積地になりつつあることから、私たちもFinGATE内のラウンジで居合わせた方と雑談をしたり、ちょっとした隙間時間に拠点開設サポートオフィスを訪ねて来て下さったりする人が現れ、気軽にコミュニケーションを取る機会が多くなってきました。こういう機会がどんどん増えていくことを期待しています。

 

ご協力ありがとうございました。

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